
「この蜘蛛はどうぢや。何といっても九谷はあんたぢや。」


明治の文豪室生犀星の短編小説「九谷庄三」の中に登場
する一節です。この色絵皿が、能美市九谷焼資料館の収
蔵品であることが判りました。
「朝顔の蔓に乱れた蜘蛛の巣がかかっていて、風にでも
揺られているような茫然とした蜘蛛が一匹、背をみせて
描かれ、他の一匹は糸を引いて五本の足でぶら下がつ
て、長い一本の後ろ脚で巣引きの糸にふまへている」
犀星による瑞々しい描写は、色絵に描かれている空気すら
感じさせてくれます。どうです、読んでみたいと思いません
か?
九谷庄三について地元では、本人の功績を称え、祀った神
社があるくらいの名工として知られていますが、時の流れと
共に、少しづつ人々の記憶がら遠ざかりつつあります。今回
、犀星研究者の木村洋子さんの指摘により、明治という時代
の中で、庄三の活躍がどの様に受けとめられていたのかを知
る上でも、貴重な資料となりました。同時代に生きた2人の
クリエイターの息づかいを感じとりながら、至福のひと時を
お愉しみいただけます。